アジアごはん比較探Qユニット「アジアごはんズ」食イベントVol.7 開催報告
Report:ASIA GOHAN’s Event Vol.7, 4 Countries COMPARISON, Noodle
タイ、シンガポール、インドネシア、マレーシア4カ国の味を一同に集め、食べ比べながらアジアの食文化をディープに探求しようという試み。7回目は麺に挑戦しました。
ところで、4カ国の麺とはなんぞや。
「麺」と漢字では一文字ですが、ひとことではとうてい説明できない麺世界。当日の様子を紹介する前に、まずは麺全般について、ちょっと説明しましょう。
シンガポール、マレーシア、インドネシアは、小麦粉の麺を「ミー」とよびます。ミーの味つけやミーの形状は、それはもういろいろで、いうなれば3ヵ国ともミー天国。ちなみに同じミーですが、前の2ヵ国はmee、インドネシアはmie。(つづりをよーくみてね)
さて、タイも小麦粉の麺(ミエン)を食べますが、米粉の麺のほうがよりポピュラー。「センレック」「クイッティアオ」「センミー」のように、太さによって呼び名が異なります。なかには長方形に薄くのばしてくるっと巻いた中が空洞のものもあり、豚のモツ麺「クイジャップ」には欠かせないものです。
といいつつ、ほかの3ヵ国にも米麺は多数あり、平打ち麺「クイテオ(クイティアオ)」を筆頭にさまざま。
ちなみに、日本でビーフンといえば米粉の細麺ですが(マ、シ、タも)、インドネシアは5ミリ程度の細さの麺をビーフンとよびます。インドネシア人はやわらかい麺を好み、硬い麺(日本でいうコシのある麺)はいまいち人気がないそう。
というわけで、4ヵ国の「麺」の種類たるや数えられないほど。この種類豊富な麺のなかで、どの麺を提供すれば食べ比べができるのか…。4人であれこれいろいろ悩んだ結果、今回は「日本では知られていないけど、その国ではとってもポピュラー。日本人は初めて食べると驚くが、慣れるとクセになる」の2つのポイントで選ぶことにしました。そこに、私たちがまだ知らない彼らの味覚のポイントが隠されているのでは、と思ったからです。
そしてイベント当日。
まず登場したのは、具だくさんのあえ麺。
●インドネシアのミーアヤムジャムール Mie Ayam Jamur
鶏ひき肉(アヤム)ときのこ(ジャムール)の油そばです。日本でたとえるなら台湾まぜそば。具はオイスターソースや甘い醤油で味つけした鶏ひき肉とマッシュルーム。鶏油、にんにく油、塩コショウで味つけした麺にのせ、パンチのある激辛チリソースを加えながら食べます。全体的に具が甘いので、チリソースはインドネシア人にとって必須。日本ではあまり知られていませんが、ジャカルタ空港にも店があるほど、現地でポピュラーな麵です。
ちなみに、インドネシア人は熱々のスープ麺はほぼ食べません。理由はたぶん気候が暑いから。このミーアヤムジャムルのようなあえ麺か、ミーゴレンのような炒め麺が主流。スープ麺の場合は、平皿に盛りつけスープ少なめで登場します。
次に登場したのは、さっぱり味。
●タイのヤム・ママーยำมาม่า
「ママー」とはタイで有名なインスタント麺のブランド。それを「ヤム」する、つまりあえた麺です。具体的に調理法を説明すると、インスタント麺のシーズニングをお湯に溶かすのではなく、調味料として麺にあえる。トッピングにゆで海老とパクチー。薄切りの玉ねぎを麺に混ぜると、よりさっぱり感が出て美味。今回はトムヤンクン味のママーを使用しましたが、ほかの味でもOKで、タイではおかずの一種としてご飯と一緒に食べます。
インスタント麺がご飯のおかず、と聞くとビックリするかもしれませんが、タイだけでなくアジア人はインスタント麺をふだんの食事に利用するのがとっても得意。鍋のシメになったり、焼きそばになったり。ちなみに余談ですが、日本ではインスタント麺には溶き卵と胡椒が定番ですが、タイでは卵焼きと粉末唐辛子とか。もうひとつ余談で、このヤム・ママー、マレーシアで人気の「マギー」のアッサムラクサ味で試してみたら、めちゃうま。ほかのインスタント麺でも試してみたい料理です。
次はあっさり味のビーフン炒め。
●マレーシアのカレー炒めビーフン Singapore Beehon
むむ? マレーシアといいつつ英語名がシンガポール。カオスな名前をもつ麺登場です。これ、よくある名前で、マレーシアにあるシンガポール風の麺ということ。日本でいえば和風ハンバーグと同じジャンル。
カレー粉を使うのが基本と言われていますが、マレーシアで食べたもののなかにはトマト味のものもありました(これもおいしい)。今回は海鮮を具に、塩、コショウ、カレー粉を加えて、香り高く、味はさっぱりと。黄色なのはターメリックです。
マレーシアでは、このようなあっさり味の炒めたビーフンはひじょうにポピュラーな料理です。白いご飯のかわりに、おかずと一緒に食べるのです。唐揚げや野菜炒めと一緒に食べるビーフン、最高です。
さて、ここからメイン系の麺へ。
最初は、豚血味というタイらしい味。
●タイのクイッティアオ・ルアก๋วยเตี๋ยวเรือ
直訳すると舟売りの麺。タイの水上マーケットといえば人気の観光スポットですが、地元の人にとっても大事な食材の調達所。そこで船で売られている麺料理がこちら。豚の血が入ったスープ麺で、舟売りの麺のなかで堂々の人気No.1。スープの風味は、血と言われなければわからないぐらい臭みはなく、コク深さは日本人好み。名前の強烈さで初めてだとビビりますが、食べるとハマる味です。
タイはスープ麺をよく食べるので、スープの風味もいろいろ。この豚血味のほかに、定番の鶏ガラ味、八角系、腐乳味(スープがピンク色)など。また、小ぶりサイズが多く2杯食べる人もざら。上級者になると、スープ麺を麺抜きにしてもらい、ご飯に合わせることもあります。
そしてさらに、驚きの甘い麺が登場!
●シンガポールのミー・レブスMee Rebus
日本語で表現すると甘い汁かけ麺でしょうか。シンガポールだけでなく、マレーシアでも人気の麺です。はじめて食べたときは、甘い? いや辛い?と脳が混乱するのですが、この甘辛さらに気づけばハマります。甘いのはすり潰したさつまいもの風味。辛みは輪切りの唐辛子です。濃厚な味にさっぱりした食感とみずみずしさを添えるもやし。日本にはない新感覚の麺。じわじわじきます。
さて、シンガポールの麺事情を少々。今回のミーレブスは汁かけ麺ですが、麺全般で人気の調理法といえばドライ(汁無しのあえ麺)麺。そしてドライ麺の人気No.1といえば、「バッチョーミー」です。屋台麺にもかかわらず、2年連続でミシュラン1つ星を獲得し、人気はさらに加速。 臓物たっぷりで酸味がある麺です。もうひとつ、シンガポールで人気の麺といえば海老麺。これはスープ麺で、海鮮を使った濃厚なスープがシンガポール人好み。ミーレブスも含めて、どれも日本ではあまり知られていない、現地でぜひ食べて欲しい味です。
そして、このイベントのとりを飾るのは、一度食べたら記憶に刻まれるクセの強い魚麺が登場。
●マレーシアのアッサムラクサ Asam Laksa
青魚の個性が全面に出た、潮の香りぷんぷんのスープ麺、アッサムラクサです。日本でも人気が高まっているラクサの1種で、ペナンを中心にマレー半島で人気。イワシやアジなどの青魚を使い、それを身ごと煮込んだスープに、酸味と辛みを加えたもの。トムヤンクン系スープを魚介類ではなく青魚のだしにして、冷汁のようにとろみをつけた、とたとえると想像ができるかしら。丸太の米麺のあっさりとした風味と弾力が、濃厚な魚ダシによく合います。
さて、このアッサムラクサを食べて、タイ担当の下関さんが「これ、カノムチーンナムヤーだ!」と大興奮。さかなのつみれを使ったかけ汁で匂いが強く、タイでもツワモノ系の麺だとか。アッサムラクサはマレーシアの北部で人気なので、タイのカノムチーンと兄弟のような関係にあるのかもしれません。
ということで、備忘録的な感じの麺比べのレポートはここまで。いろんな麺があるアジア。いろんな好みがあるアジア。似ているようで違っていて、違っているようで似ている。その発見の旅はまだまだ続きます。(アジアごはんズ 古川音)
■アジアごはんズとは
浅野曜子(インドネシア料理プロデューサー+フードコーディネーター)、伊能すみ子(アジアンフードディレクター)、下関崇子(カルチャー料理家、ムエタイインストラクター)、古川音(「マレーシアごはんの会」代表)からなるアジアごはん大好きグループ。